縁起

『讃岐香川郡志』（昭和19年12月8日発行）によれば、法恩寺の創建は永正元年（1504年）と伝えられています。

当寺の正式名称は光住山昇了院法恩寺で、本尊は阿弥陀如来です。永正九年（後柏原天皇の御代）、浄願法師が開基しました。

応仁の乱に際して、新居資親は父・資忠とともに香西氏に従い出陣し、戦功を挙げました。帰国後、姓を末澤と改め、菩提寺であった正林坊を領地の鹿角に移して「法恩寺」と称し、菩提寺としたのが当山の始まりとされます。

資親の子・資俊、その子・資継の代（大永二年）には鹿角に城を築き、天文十二年には成合城主・飯沼氏との戦に勝利を収めました。しかし天文年間、資継の子・資規の代に長宗我部氏の攻撃を受け落城。その後は仙石氏に従い各地で戦功を挙げました。天正十五年には資規の子・秀継が島津征伐に従軍し、帰国後は新居村の万燈城に居住しました。慶長十九年には大坂冬の陣に出陣。寛永三年には鹿角の菩提寺・法恩寺に移り住み、姓を藤原と改めました。嫡子・彦助は万燈に住んだと伝えられています。

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『さぬき一宮郷土誌』（平成2年7月11日、伊達伍先生執筆）によると、法恩寺は万燈新居家の菩提寺であり、その十九代目・資親が再興したとされています。

万燈新居家は讃岐藤氏の系統で、屋島の合戦では源義経に従い、『吾妻鏡』にもその名を残しています。祖は新居藤大夫資光の第四子・資秀であり、代々武人の家柄でした。資親もまた武士として細川勝元に従い応仁の乱に参陣、京都六条合戦で武功を挙げましたが、その後は本願寺・蓮如上人に帰依し、帰国後に鹿角村に菩提寺を再興。これが法恩寺であり、資親は武人でありながら易行道念仏の行者として「浄願」と号し、開基となりました。

文化九年の由緒書には「天台宗から一向宗に改宗」とあり、これは浄願の時代のことで、本願寺・実如上人から六字名号を拝領したと伝わります。さらに寛文五年の『国中諸寺扣』東香川郡の部にも「一向宗三木郡連成寺末寺 法恩寺」と記録され、『出家本末帳』にも次のように記されています。

讃州連成寺末寺　一向宗　法恩寺
一、開基永正年中、浄願と申す僧、諸旦那の助力をもって建立仕候事
　　寺の証拠は本寺実如上人の六字之名号所持仕候事

法恩寺と藩主寄贈の庭石

法恩寺は一向宗らしく「おみどう（御堂）」も広く、境内もゆったりとしています。本堂前庭の東寄りには、藩主から賜ったと伝えられる大きな庭石があります。言い伝えによると、この石はかつて勅使御殿にあったもので、力自慢の相撲取りが担いで運んできたといいます。当時、法恩寺の住職の法話が殿様のお心に深く響き、その褒美として下賜されたものであり、以来、寺宝の一つとして大切にされています。

庭石は長大な岩で、地に据えたというよりも高く土壇の上に立てられ、その前には凝灰岩製の丸い井戸枠や、庭石に付随する小石が並べられています。杉の枝葉がその間を彩り、独特の趣を添えています。

この石は遠目には凝灰岩のように見えますが、近くで見ると「花崗砂岩」で、花崗岩が風化・分解して堆積した砂からできた水成岩です。

また、「相撲取りが担いで運んだ」という伝承の背景には、三代藩主・松平頼豊の存在があります。頼豊は勅使御殿を築き、その周辺を栗林公園にも劣らぬ別邸として整え、豪奢な生活を楽しんだ殿様でした。各地から力士を集めて相撲を取らせるのを好み、時の将軍・徳川綱吉の側近である柳沢吉保に多くの財宝を贈ったとも伝えられています。

法恩寺は勅使御殿にも近い位置にあるため、この庭石は御殿解体の際の残石であることは間違いないと考えられます。

法恩寺の経堂と鉄眼の大蔵経

真宗一向宗は「たとえ一文不知の尼入道たりとも、後世を知るを知者とする」と説かれるように、信心獲得を中心とする宗教であり、ときに「一向ほっこう物知らず」と揶揄されることもありました。しかしその中にあっても、法恩寺のように経堂に一切経を集める寺院もあり、そこから学僧が輩出されることも少なくありません。実際、当寺の第十四代住職・浄休（俗名 藤原政之）もその一人です。

法恩寺にはかつて、鉄眼禅師による翻刻版の一切大蔵経が収められていました。現在ではその大部分を失いましたが、江戸寛文年間にはなお多くが所蔵されていたと記録されています。

鉄眼（1628–1700）は肥後の人で、俗名を道光といい、もとは真宗の教えを究め、のちに儒学を学びました。中国から隠元禅師が長崎に渡来したことを聞き、その教えを受け、大蔵経の乏しい日本の現状を憂い、翻刻の大志を抱きました。ついに四十年の歳月をかけ、鉄眼版大蔵経を完成させました。禅僧でありながら一向宗にも通じ、「白骨となる身なり、地獄の業をのみつくりて、三途の川に沈みぬる身なり……」と述懐した人物としても知られています。

また、経堂（現在の納骨堂）には、一切経とともに壁画があり、左壁には「奄没羅採取図」、正面には観音の浄土を描いた「補陀落迦山図」が配され、訪れる人を魅了します。これらは昭和三十二年、檀紙町出身の画家・野生司香雪の筆によるもので、本堂にも同氏の襖絵八面「インド・ヒマラヤの雪山図」が残されています。

法恩寺の歴代住僧

初代浄願
二代浄空
三代浄玄
四代玄西
五代覚玄
六代遊玄
七代惠玄
八代惠教
九代惠柱
十代栄歡
十一代栄達
十二代浄正
十三代真栄
十四代浄休
十五代良行
十六代浄峰現住職